「ファンマーケティング」に関する注目は、「推し活」「ファンダム」などのワードと共に再燃していますが、古くから実施されている・かつ広報活動において当然のマーケティング概念・手法です。
ファンマーケティングはどう進化しているのでしょうか?そこには「ギブされたものをテイクする」だけの一方的な関係から、「ギブ&ギブ」のファン文化が築かれている変化が挙げられます。
ファンマーケティング 従来と現在の違い
「ファンマーケティングの変遷に於いて、従来と現在の最も大きな違いは、「一方向か双方向化」ということです。
双方向、というと「またオンラインコミュニケーションか…」と思われるかもしれません。もちろんオンラインの発達によって双方向が叶うようになったのは大きな理由ですが、そればかりでなく、旧来は広告主導・企業側主導だったものが、店舗での交流やアンケートなどでも、双方向性の姿勢が主流になっています。
これは消費者マインドの大きな変革が一因です。一方的に企業やメディアから発信されるトレンドによって消費行動が方向づけられていたものから、「もっと便利に」「私はこっち」など、顧客の我儘が企業側により身近に届くようになり、顧客とのコミュニケーション方法、コミュニティの形成、顧客体験の提供方法も幅広になったことから、双方向のコミュニケーションが主流になってきたのです。
ファンダムの誕生
この双方向のコミュニケーションから生まれたのが、「ファンダム」と言えるでしょう。
「ファンダム」とは、いわゆる「ヲタク」と言われるような熱心なファンと、そのファンが作り上げたコミュニティ・文化、いわばファンの最強集団のことです。
日本ではその集団を「ヲタク」、その文化や活動を「ヲタ活」「推し活」などと表現しますが、世界的にもこの「ファンダム」の潮流は経済・政治の世界でも無視できないものになっています。
その影響が顕著だったのは、テイラー・スウィフトの発言によってファン「スウィフティーズ」の行動が選挙に影響を与えた米大統領選、ハリー・ポッターのファンによる人権問題の議論など。
彼らの行動で双方向コミュニケーションの進化と言えるのは、ファンが、「インフルエンスするだけでなく、クリエイトする文化がある」、いわゆるクリエイターでありインフルエンサーである、ということです。
ファンによる推奨行動
ファンベースカンパニーの研究機関、ファン総合研究所が2022年8月に実施した「推奨行動に関する調査」では、
(1)専門家やインフルエンサーではなく、「友人や親しい人」「家族」からの影響を受けやすい
(2)企業からの情報提供では、広告よりも「公式サイト・店頭」が信頼を得ている
ことが明らかになっています。
つまり、「SNSの普及で騒ぐ人が多いからファンダムの意見が影響するようになってきたのよね?」と分かったようなことを論じていると本質を見誤る傾向に…!
実際に、良いと感じたものは家族や親しい友人、同僚など身近な人にお勧めする、というヒトが多く、また勧められた側も祖の情報への信頼性が高いという結果が得られたのです。
一方で、SNSなど不特定多数の人に対する口コミで勧めたと答える人は30%にも満たない結果で、SNSが盛んでも、『自分が気に入ったものの推奨』という行為は、オフラインで実際に親しい人に行っている=受け手側も信頼できる情報として受け取る、という傾向があるのです。
これらが小さなバズを巻き起こし、SNSなどで散見するようになって「SNSでバズらせているのはファンダム」と認識される傾向にあることも事実ですが、実際には身近な人からじわじわと広まった、いわば昔ながらの「口コミ」と変わらない広まり方で、ファンの推奨行動は図られています。
ファンダムの特長
そんな旧来の「クチコミ」が未だ信頼性が高いとされる中でも、「ファンダム」の力が従来と異なるのは、
クリエイターであり、インフルエンサーであること。
今までは良いと思ったものを「良い!」と流布するだけだったのが、「ファンサブ」や「応援広告」のように、非公式の二次創作物をつくり、さらにそれを共有できるのが、旧来のファンマーケティングとの大きな違いです。
以前は漫画やアニメの同人誌やコスプレ会などが主流でしたが、SNSなど共有する場がバラエティに富んでいて身近になっているのが現在。
オールドメディアである看板広告や新聞広告なども、
韓国では新聞広告はすっかり様々なアイドルのファンダムによる誕生日メッセージなどで埋められるのが一般的になっていたり、
日本でも「センイル(韓国語で「誕生日」)広告」で検索すると、アイドルやアニメキャラクターのお誕生日などを祝うことができる大都市圏の交通広告が多数ヒットします。
広がり方、実際の行動に移される「手段」の部分はイマドキの事情が反映されている「ファンマーケティング」。
と、いうことは…
基本に還るマーケティング
身近な人の推奨を信頼するファン心理。
イマドキならではの手法が多数存在するファンダム経済。
これらを同時に考えた時に、ファンマーケティングとは結局、基本のところは何も変わっておらず、「本当に良いものを熱狂的に愛し続けてもらう諸端を作る」ことを真摯にやっていく企業姿勢が必要になると言えると思います。
加えて、目にするきっかけとなりやすいプラットフォームは用意してあげて間口を広げ、あとは勝手にファン同士が論じてくれる場を作る、と言うのが企業側が出来るマーケティング活動なのかもしれません。