TVerがテレビを変える?急成長の理由と、PRでの向き合い方

TVerは、海賊版や不正コピーの防止・対抗策として2015年10月からサービスを開始しました。ここを訪れている方であればご存知かと思いますが、民放テレビ局が提供するテレビ・動画コンテンツを視聴することができます。
既にコンテンツを観るプラットフォームとして定着してきたTVer、広報としてはどう向き合い、理解しておけばよいでしょうか。

TVerの歩み

来年10周年を迎えるサービス、と考えるとそんなに以前から?と思わされますが、前身となる株式会社プレゼンキャストは2006年に設立され、プラットフォームとしてはずいぶん以前から模索されてきました。

2015年のローンチ時はまだコンテンツが少なく、番組コンテンツファンの一般層までユーザーを獲得することはできず、一部のアーリーアダプターが注目するにとどまっていましたが、風向きが変わったのは2020年1月。在京民放5社が夕方に放送しているニュース番組とアニメ番組の同時配信を5日間限定で試験的に行ったところ、これが好評を博し、ニュースとしても大きく話題になりました。

コロナ元年にこの試験配信を行ったことも、TVerにとっては結果的に追い風となりました。
春になると外出自粛の世相に乗って、過去最高のユーザー数を更新する配信系サービスが続出。TVerもご多分に漏れず、この勢いとともに、同年10月から2か月間、日本テレビがプライムタイムの同時配信試験サービスを開始しました。民放局5社が出資ししている企業のサービスとはいえ、日テレのこの英断は、各社の足並みをそろえるのに社内調整で嵐が吹き荒れたと、当時のことを現場から聞いています。

同時配信の成功を受けて、翌年の東京オリンピックのライブ配信を実施。
2022年の4月にようやく、民放5局のリアルタイム配信の足並みが揃いました。

この効果はてきめんに現れます。4月26日、ビデオリサーチによる調査で月間動画再生数が2億回程度だったのが、2億5千万回越えを記録したと発表、その3か月後にはアプリのDL数が5000万を越え、やっと“一般のスマホユーザー”まで使われるようになってきたのです。

同時に、この頃から、私どもテレビパブリシティを説明する立場でやっと「放送は関東ローカルですが、TVer配信があります」といえるほどに、そしてクライアントも理解・納得するほどになってきました。
今では月間ユーザー数は過去最高の3500万に達しました(2024年1月現在)。

このユーザーの増加に合わせて、TVer内でも広告部隊のスタッフを整え、離脱率10%以下、というだけではなく広告の視聴完了率が90%超という(視聴しないとコンテンツ視聴に進めませんからね…)認知獲得だけでなく、広告を完全に視聴してもらえるという強みを活かし、広告収入を伸長させてきたのがTVerのこれまでの歩みです。

TVerに強いコンテンツ

TVerで強みを発揮したのが、ドラマコンテンツです。
制作費が嵩むわりに視聴率が獲れないとして制作意欲が萎んでいたテレビ局に、TVerでのドラマコンテンツの人気はインパクトを与えました。

地上波で放送された最新のドラマエピソードを無料で視聴できるため、視聴者は放送時間に縛られずに好きな時に視聴できるだけでなく、低予算ながら地方局のみで放送されたドラマも配信されるようになり、NETFLIXやHuluに流れていたコンテンツファンにとって、テレビ局が制作するドラマを見直すきっかけにもなりました。

特にTVerが注目されたのは、2017年4月期のTBS火曜ドラマ『あなたのことはそれほど』。より多くの視聴者にリーチし、話題となった代表的な不倫ドラマです。

『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』、『不機嫌な果実』、『奪い愛、冬』と、巷の不倫スキャンダルへのバッシングとは反比例して、不倫ドラマが話題化する中で、視聴率以上に配信の再生回数が回っていると話題になったドラマが『あなたのことはそれほど』です。
ドラマ自体がこれまでの不倫ドラマと異なり、主人公の美都が、不倫をそれほど悪びれない女性として賛否両論巻き起こる中で、「夫婦では気まずくて視聴できない」「家のテレビで観てるのは憚られる」中、スマホやタブレットで個人視聴するファンが続出し、TVerの効用を新たに開拓しました。

また、一部のスポーツ大会もリアルタイム・及びアーカイブ配信されるようになりました。
先述の通り、東京五輪の際にマイナースポーツも含め配信されたのをきっかけに、DAZNやJ-Sportsなどでしか見られなかったスポーツのファンにも、なじみのあるプラットフォームになりました。

今年のパリ五輪でも、ほぼ全競技の全種目ライブ配信すると日本民間放送連盟から発表されています。NHKプラスでも開会式中心に同様の配信がありますが、これまでの五輪で特設サイトを中心に配信していたものが、今年はTVerのみで行うことが決定し、民放各局の足並みが揃ってきたといえるでしょう。

ドラマのプレイスメントが再注目されるパブリシティへの影響

TVerでドラマ人気が見直されると同時に、テレビパブリシティでもドラマでのパブリシティのリクエストが強くなってきたように感じています。

ドラマでのパブリシティは、演出やストーリーに関わるような露出は、主に制作陣の作品へ宣伝色を持ち込まれるのを忌避する意向が強く反映し、「プレイスメント」と呼ばれるドラマのセット内でスポンサーの商品が使われる程度の露出が一般的でした。

韓国ドラマが積極的かつ効果的にプレイスメントを行っていることを受けて、日本でもこの制作陣の趣向が見直される傾向が強まり、2015年4月期のTBS火曜ドラマ『マザー・ゲーム~彼女たちの階級~』では、仏・高級ジュエラーの「ショーメ」とTBSがタッグを組み、全面的なタイアップを行ったことが話題になりました。

翌年の7月期には同枠でティファニージャパンを主人公たちの働く舞台として設定された『せいせいするほど、愛してる』が放送され(そう考えるとこの時のTBS火曜ドラマはかなりの実験枠でプロデューサーの意向が強く反映できた時期)、これも大きな話題となりました。

NHKの朝ドラや大河ドラマで地元の偉人を取り上げるように画策する地方自治体が多いのと同様で、ドラマのグルメ・撮影場所などの“聖地巡礼”が経済効果をもたらすようになっている中、人気ドラマでのパブリシティは、これからも作品への魅力が増すような露出方法を模索していきたいと考えています。

原点回帰とTVerの“使い”道

ドラマコンテンツに新しい力を与え、視聴率に依存しないテレビの在り方を変えたTVer。ただ、ここからがまた正念場であるという声がTVer内部から聞こえてきます。昨夏頻繁に流れていた「サウナ特集」など、試験的に行われていたコンテンツ連動型の広告企画が継続的に成立していないことや、コンテンツ提供の足並みがまだまだ各局で揃わない(揃えるのが非常に難しい)という課題があります。

ただ、「テレビを観なくなった」わけではなく、「テレビに縛られる時間が少なくなった」だけであり、面白いものであれば視聴するという原点回帰が見られたことは、テレビ局にとっても良いことだと思います。また、パブリシティも新しいプラットフォームを模索する時期が来たと考えています。

テレビと配信の大きな違いには、リコメンド機能がある良さと、逆に全くない良さがあります。テレビ局という免許事業の中で、数字だけにとらわれず、良質なコンテンツが生まれていくことを期待しています。そして、その中で私たちも良い企業・良い商品やサービスの紹介ができるように、テレビの制作者たちとアイデアを絞り出せるように、広報に携わる者としても原点回帰を求められていると思います。

今、私どもで画策しているのはリアルとの連動。
キャラクターやイベントなど、テレビ局が持つ「資産」と、TVerや地上波放送全体を巻き込んで、コンテンツの価値を上げていくようなことを企業がスポンサードできれば、企業もテレビ局もTVerも、大きなPR効果をもたらせるようになってきていると期待しています。

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