昨年末、「PR会社」が世間を賑わせ、「広報担当者」のワードがメディアで踊った時期がありました。日ごろ黒子であるPR会社がこんなに話題化したのは、旧ライブドア社の広報担当者以来、約20年ぶりだったかもしれません。
現代の情報・メディア環境において、「広報」の役割は重要性を増しています。
特にSNSをはじめとするメディア環境が劇的に変化する中で、「広報=インフルエンサー的存在」あるいは「元メディア関係者であるべき」といった誤解が広がりがちです。しかしながら、企業の広報担当者に求められる資質とスキルは、それらとは本質的に異なるものです。
広報とインフルエンサーの根本的な違い
インフルエンサーは、その名の通り「影響力を持つ個人」として、フォロワーとの感情的なつながりや個性ある発信によって共感や支持を集める存在です。主観的・瞬発的なコンテンツの力によって注目を集めるスタイルは、一見、「企業の情報発信担当者としても優れている」と認識されがちですが、企業とは情報発信の減速やルールが異なることを理解して初めて、その力を発揮できるといえます。
企業の広報担当者は、あくまでも組織の一員として「企業の立場を代弁する役割」を担います。そのため、個人の意見や感情は抑制され、企業全体のブランド価値、ステークホルダーとの信頼関係、法的リスクなどを考慮した情報設計と管理が求められます。単なる発信力ではなく、「組織にとって適切な発信とは何か」を判断する責任が伴うのです。
当たり前…と思われることが、意外と本質を理解することが難しい。
これは、論じるような文章でなく、SNSのような短いテキストや動画で表現する内容だからこそ、この原理原則や責任の所在が業務内で落とし込まれていないと、ちょっとした表現で「勘違い」と周囲から評価されてしまう落とし穴になります。
メディア経験者=メディアに詳しいから広報に向いている?
一方で、報道機関の経験者は、情報の客観性や迅速な取材力に長けており、企業の広報担当者が、かつて報道機関やメディア関連の仕事に従事していたケースは珍しくありません。実際、弊社でもメディア経験者が居ますし、同業他社でも元テレビ制作会社勤務の方などが多数活躍されています。
PR会社でも活躍していらっしゃる広報担当者・PRパーソンは、
●報道の目的が「事実の伝達」であるのに対し、広報の目的は「企業の戦略的意図に沿った伝達と印象形成」であること
●情報を「受け取る側」から「発信する企業の立場」へと立場や役割が変わっていること
の2点を本質的に理解できている方だと思います。
広報は、「何をどこまで伝えるか」「伝えないことによってどのような影響があるか」といった、情報の“編集と管理”に大きな責任を負っています。企業イメージやブランドレピュテーションの維持・向上を目指し、メディア対応、リスクマネジメント、社内外コミュニケーションの設計など、多面的な業務を遂行する必要があります。
元メディア出身である広報担当者にとって、かつての関係者に「自分が今いる立場の意味」を理解してもらうことは、時に最も困難でありながら、最も重要なコミュニケーション課題です。それは単なる説明を超え、信頼の土台を再び築き直す作業です。
企業の一員としての責任と、メディアへの敬意。その両立のために、広報担当者は「相互理解の架け橋」として、日々細やかな対話を重ねていく使命を担っているのです。
広報担当者や外部の広報パートナーに必要なことは
企業の広報担当者は「インフルエンサー的な華やかさ」や「メディア経験の即応性」だけでは担えない、専門性の高い職務です。
企業の信頼を守り、時にリスクを未然に防ぎ、時にブランド価値を高める存在として、広報はむしろ「見えないところで企業を支える黒子的存在」としての使命を担っていることが本質的に、そして経験を重ね、理解できる営業資質が必要になると言えます。